中国コント(春節晩会小品)入門
生存報告替わりの更新です。
講座参加者の入院から復帰の見込みもなく少人数になってしまったので毎年恒例の料理教室は中止にして、代わりに先生が今年は久しぶりに面白かったという春節の年越し特別番組中で放映されるコント(春節晩会小品)と、その歴史について解説してもらいました。
1983年から始まった春節聯合晩会のコントですが一回目の出し物は晩会出席者がアドリブでやった映画(阿Q正伝)のパロディみたいな物で単品で見ても元ネタが分からないと意味が分からないという内容でした。
毎年やっているのでもう40回放映された事になりますが全部抑える必要はなく、入門としては名作5編ほどを抑えて置けば十分との事。
数あるコント作品の中でも晩会小品はその最高峰と言える訳でその中の5選となるとかなり期待できます。
1984年《吃面条》前半
コントとしては1984年が最初の作品という事になります。
1984年《吃面条》後半 主演;陈佩斯 朱时茂
「麺を食べる」 あらすじ
端役俳優の陈佩斯は監督に頼み込んでやっとの事で麺を掻き込んで食べるシーンを演じる役を勝ち取るが本人が元々台詞の憶えが悪い上に劇の理解力も低い。
更に監督がリハーサルで何度も麺を食べさせた為に最後の本番ではお腹がいっぱいで食べられなくなり台詞も覚束なくなって芝居は滅茶苦茶に…
演者二人の軽妙な掛け合いが楽しく、陈佩斯のエア麺食いがまあ上手
1990 年 《主角与配角》主演;陈佩斯 朱时茂
「主役と脇役」 あらすじ
舞台俳優の陈佩斯は軽薄で小物感ある外見の為にずっと「裏切者役(抗日劇の中国人悪役)」に当てられて来たが主役のイケメン俳優 朱时茂に今回だけは八路軍の軍人役をやらせてくれ、役を交換してくれと頼み込んでやっと同意を得る。
しかし、長らく「裏切者」役しかやってこなかったので、演じ始めるとつい裏切り者の台詞が出てきてしまうし態度もどうしても小物感たっぷりで結局は元通りに…
此方も掛け合いが楽しく想い通りに演じられない陈佩斯の苛立ちが悲しくも楽しい。
抗日劇をネタにしているのでドラマを見た事がない人だとお約束ネタが分からないかも。
字幕なしバージョン
字幕ありバージョン
1990年《超生游击队》主演;黄宏 宋丹丹
「生命を超えたゲリラ部隊」日本語だとなんか上手く訳せる感じがしないので英訳で
「OVER LIFE GUERRILLA FORCES」とでもしといた方がいいかもしれない
あらすじ
黄宏と宋丹丹の夫婦は息子が欲しくて子供を作ったが生まれたのは娘
一人っ子政策で二人以上子供を作れない状況だったが、どうしても息子が欲しい夫婦は故郷を離れて逃亡の旅へ出る
しかし二人目、三人目も生まれたのは娘だった夫婦は今度こそは息子をと逃亡の旅を続けてとある街へ赴くが街頭に監視員の様なお婆さんを見かけたので黄宏と三人の娘と四人目を孕んだ宋丹丹は暫し街外れで休憩する事にしたが…
奥さんの愚痴は留まる事を知らず、夫の軽口も留まる事を知らず…
個人的に一番凄いと思ったコントはこれ
コントの見た目は戦争映画ぽい名前から始まって導入の戦争映画パロディとコミカルで間抜けな感じだけど、後継ぎの男の子が欲しいからと二人目の子供を作るなら故郷から逃亡しなくちゃいけない、街には監視員がいるから街から街へ逃亡生活を続けなければいけないという過酷な現実。
普通に考えたら重すぎて笑えない設定。
そもそもなんで息子じゃなきゃいけないのだ、娘だっていいじゃないか、男女平等だろ、跡取りは男じゃないと駄目っていう社会通念が間違っているだろ!もう諦めて故郷に帰ろうよ!罰金払うのも仕方ないよ!という気持ちが透ける奥さんの愚痴。
当時は未だ一人っ子政策真っ最中だから放映する前に脚本段階から何度も政府の審査を受けて放映してる訳だけど此れを観衆もみんなで笑って見ているんだから不思議な感覚がする。
この時代はもう豊かになりかかって来た時代なんで当時の人達にとっては笑える状態だったいう事なんだろうか?
この頃からコントの内容に社会風刺を取り入れだしたので社会のバックボーンを理解していないと外人には完全には理解できない感じになって来ている。
しかし政策批判とも取れる内容なので放映までは色々紆余曲折があったんだと想像する。
当時の経緯をプロジェクトXみたいに解説する動画とかテキスト有ったら誰か教えて下さい。
字幕なしバージョン
字幕ありバージョン
1994年《打扑克》主演; 黄宏 侯耀文
「ポーカー」 あらすじ
大晦日に帰省の列車に乗っていた黄宏は同じく乗っていた小さい頃のクラスメート侯耀文に出会い酒盛りを始める。
当時からポーカー狂だった彼らは此処でもポーカーを始めようとするがトランプが見当らない。
じゃあと、小さい頃にトランプがない時に食料切符を使ってやっていた自分ルールポーカーみたいに集めた名刺を使ってやって見ようぜという話に。
名刺に書いてある肩書や職業の繋がりで役を作ってポーカーをやり始める二人。
課長、所長、局長フラッシュ!とか、京劇の役者より香港台湾の歌手の方がギャラ多いから強いとか、香港台湾の歌手より税務局長の方が課税できるから強い、といった具合に盛り上り夜は更けて行く…
この名刺肩書で役を作るというのは、日本だとよく麻雀漫画の「ぎゅわんぶらあ自己中心派」でよく見た業界やジャンル独特の牌を作って役をつくる展開ですね、中国でも似た様な事考える人がいるんですね、それとも元々よくあるネタなんでしょうか?
特筆すべきは晩会会場の賓客を弄るネタ、当時の風潮や社会問題や事件をコントの中に盛り込むスタイルが始まってる事だと思います。
終盤に出てくる賓客の馬教練というのは中国の陸上中距離走で初めて金メダルを獲得したチームの監督さんなんだそうです。
会場の招待客の服装や見た目にも時代を感じる動画でした。
画質微妙版
画質明瞭版
1999年《昨天今天明天》主演; 赵本山、宋丹丹、崔永元
「昨日今日明日」 あらすじ
中央電視台の人気トーク番組《实话实说》のゲストとして招かれた東北の田舎の農民の老夫婦赵本山、宋丹丹。
人気司会者崔永元は番組の段取りに則りなんとか彼らに夫婦の歴史を語って貰い、いい話を引き出すものの老夫婦のマイペースで空気を読まない言動に最後まで翻弄される…
先生一押しの最高傑作のコントで、実際このキャラが爆受けして此処から約10年に渡り老夫婦役赵本山、宋丹丹のコンビで晩会小品に出続けていた様です。
人気司会者の崔永元をコントの中で弄り、賓客の俳優達を老夫婦の「心の恋人」として挙げて弄りといったその年に話題になった人達をネタにした笑いは中国の人には爆受けしていましたが、笑いになった元ネタの番組やドラマ、書籍を読んでいないと分からないネタが多かったので個人的には5編の中では微妙に感じました。
確かに老夫婦のキャラは可愛くて皆が夢中になったのも理解は出来ますが。
しかしコントの中でバンドが効果音やオノマトペぽい音を演奏するのは当時流行っていたのでしょうか?
当時大人気だった台湾の「我猜!」というクイズ番組でも同じ事をやっていた様な記憶があります。
先生曰く2000年以降は特筆すべきコントはなかったけど、今年の作品「坑」は見る価値がある、との事なので次回の更新で全訳を上げるつもりです。